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マーケッター・リサーチャーのための心理学講座 第1回<心理学とはなにか>

佐野
「なるほど。話が脱線しますけど、人間の脳はコンピュータみたいに動いているものなのでしょうか。認知心理学というのはそういう風な説明をするためのパラダイムなのかなと思っていたのですが。」
渡邊
「人間の脳がコンピュータじゃないかというと、はっきりノーとは言えない。コンピュータであるということがわかったところで、私としては問題ない。むしろプロセスの複雑さと意外さの方に興味があって、それが原理上どうであるかというのは実はあまりどちらでも構わない。『人間の脳はコンピュータ』という表現に含まれるニュアンスには、二種類あって、ひとつは人間の脳がたかだかコンピュータだ、みたいなそういう言い方。もうひとつは人間の脳はコンピュータ=速いとか凄いとかそういう意味です。その人が、人間の脳はコンピュータだ、と言った時にどっちの意味合いで言っているかを見なきゃいけないかな。私はたぶん後者なのです。コンピュータであってもすごいコンピュータであって。それって凄いよね、ということです。」
佐野
「なるほど。最近、現在慶應大学におられる前野先生がかつて提言した受動意識仮説という本を読みました。仮説なので検証はされていないかもしれないですけど、身も蓋もない話で、人間はシナプスの集合(「小人」)が決めたことを、意識が下流で追認しているに過ぎないと言っています。」
渡邊
「我々は一般に意識があって、それが自分の行動を決めていると思っているけれども、実はその逆ですということですね。しかし、だからと言って、我々が主観的に物事を感じている、ということの不思議さは(少なくとも私に取っては)消えてないですね。」
佐野
「還元論的に言うと、最終的にはシナプスのつながり、ニューラルネットワークの集合が人間の行動を勝手に決めていて、意識はそれを追認するだけに過ぎないということのようです。」
渡邊
「追認しているだけに『すぎない』というよりは、『追認している』でいいのではないでしょうか。表現の問題だと思うけれど、シナプスがすべて『勝手に決めている』のではなく、勝手ではなくて『シナプスが』決めているということです。『人間の心は脳の産物にすぎない』という表現はよく使われますが、個人的にはやや違和感を感じます。自分の心には理由がある、と安心したいのかなという気がして。まあもちろん理由はあるのですが、シナプスのつながりが理由であったところで、自分の責任は減らないし、幸福感も変わりません。でも、それを何とか消したいという気持ちが見えている感じがするのですよ。」
佐野
「シナプスが勝手に決めているものの多数決みたいなものとも言っています。だからと言って全体を説明したことにはならない、という感じはしますね。」
渡邊
「私としては、それにも関わらず、なぜ我々は何かを選択する時に悩んでいるように振る舞っているか、あるいは感じているかを知りたいところです。」
佐野
「心理学者の系統図を描くことはできますか?心理学のアメリカ派とか、イギリス派とか。」
渡邊
「あると思いますが、私はあまりそういうものを信用していません。歴史って後の弟子が勝手に作っているところがあって、系統の話はたいてい眉唾ものです。今の心理学がどういう風にできたか、という試験に答えるための系統図みたいなものがあったとしても、例えば自分は誰に影響を受けたかなんかはわからない。友達かも知れないし、たまたまその時読んだ本かも知れない。歴史は面白いストーリーであれば良いのであって(笑)、だから、まあ逃げになるのですが、系統図があるかといったら、私の中では心理学というのは哲学の一つから出てきて、今度は主観をきちんと調べるようになってきて、それが今に至るというレベルの流れでしかないですね。」
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